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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター

岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
そば前を自由な発想で楽しむ

そば前とは、そばを食べる前におつまみを酒とともに楽しむ文化を指す。一般的にそば前といえば、刺身や板わさ、だし巻きたまごなどがあげられる。それらをイノベーティブに自由にアレンジ。自然派ワインとともに味わうことを提案しているのが「日々」だ。

店があるのは、駒沢大学駅からも学芸大学駅からも都立大学駅からも徒歩で15分以上かかる場所。「どこの商圏にも属さないエリアに店を出したかったんです」とはオーナーの山﨑真人さん。駅前の繁華街ではなく、近所に住む人が会社帰りに気軽に立ち寄れるカウンター店として利用されている。

日々のメニューを開発したオーナーの山﨑真人さんはペルー・リマ「Central」などで働いた経歴をもつフリーランスの料理人。日々では、めんつゆを使わずに発酵調味料やスパイスを使った新たなそば前を提案。日本酒だけでなく、相性の良い自然派ワインを店長の早川優月さんがセレクトしている。イノベーティブというととがったイメージがあるが、店内はレコードから昭和歌謡が心地よく響き、ゆるりとした雰囲気となっている。
刺身盛り合わせ✕りんごとブドウの果実酒

定番の「刺身盛り合わせ」も日々の手にかかると、美しく可憐なヴィジュアルとなる。こちらは醤油で食べるのではなく、塩や発酵調味料で味わう。マグロの赤身は赤玉ねぎとハイビスカスポン酢、ブリはピーナッツと白味噌を合わせた味噌だれ、ほうぼうは煎り酒に漬けてとろろ昆布と一緒に、コウイカはすだちを搾ってすだち塩、タコはパプリカ塩を添えて提供されている。

刺身盛り合わせにおすすめなのは、チェコのりんごとぶどうを使ったスパークリングワイン。「見ていただいてわかるように、にごりもあって甘そうなんですが、野菜のような青っぽいニュアンスがあるドライな味です。酸味もおだやかで食中酒としていいですね」と早川さん。トロピカルな香りがあって、最初の1杯目としても疲れを吹き飛ばしてくれるおいしさがあった。
手羽先唐揚げ✕オレンジワイン

日々では小皿料理も充実している。こちらは、鶏の手羽先を調味液に浸して一夜干しにして水分を抜いてから唐揚げにしたもの。青唐辛子とケッパーを合わせた柚子胡椒のような辛みのある調味料でいただく。パリッとした皮目にかじりつくと鶏のうまみが凝縮したおいしさがピリッとした辛みのある調味料とマッチし、素直に楽しくおいしい。

手羽先唐揚げにペアリングしてもらったのは、新潟のカーブドッチワイナリーのオレンジワイン。「食用のデラウェアやナイアガラを中心にしてワイン用ブドウもブレンドして造られたオレンジワインです。香りにキャンディのような甘みがあるので、ピリ辛の調味料の味付けにも合います」と早川さん。ジューシーでやさしい口当たりがパリパリ食感の唐揚げとも好相性だった。
真鯛節のまぜそば✕赤ワイン

〆には、もちろんそばをいただきたい。日々では2種類のそばがそれぞれのメニューに使われている。「真鯛節、牡蠣醤油、すだちのまぜ蕎麦」は皮ごとひいたそば粉を使い、香りがしっかりしたしこしこのそばを使用。真鯛を低温で4日間塩漬けしたものと牡蠣醤油、すだちを混ぜていただく。「真鯛節は、鯛の甘みがうまみとして凝縮したものをパウダー状にして使います。それをすだちの皮の香りと搾ったときの酸味でいただくので、うまみが強いですがさっぱりと食べられます」と山﨑さん。

真鯛のまぜそばにおすすめは、宮城のファットリア アルフィオーレの赤ワイン。「そばには赤ワインが合うと思っています。こちらの赤ワインはスチューベンというブドウを主体にしたもの。味わいもしっかりしていて、おすすめできる味わいです」と早川さん。うまみの強い真鯛節のまぜそばに、適度にボリュームやタンニンがある赤ワインがしっかり寄り添っていた。
早川さんの「私が恋した自然派ワイン」

早川さんが恋した自然派ワインは、訪れたこともある宮城のワイナリーの一本。
「日々に来てから、ファットリア アルフィオーレのブドウの収穫祭にお手伝いに行きました。いつも飲んで提供しているワインのブドウがどういう過程を経てできているかを実際に見て肌で感じさせてもらったので、絶対的な信用があります。
日本ワインが注目されているなかで、どちらかといえば白ワインの評価が高いと思います。こちらの赤ワインは、丁度いいタンニンとぶどうの味わいがバランス良くて、造り手さんの人柄が感じ取れる優しい赤ワインとなっています」
知られざる地域のワインをセレクト

日々ではあえてスペインやドイツ、オーストリアなどフランス以外の自然派ワインを中心にラインアップ。「普段、皆さんが選ばないような、でも実はおいしいワインをセレクトしています」と早川さん。日本ワインも積極的に取り入れてられている。味わいは酸味のしっかりしたもの、おだやかなものなど、さまざま用意されている。グラス7種類(1,100〜1,600円)、ボトル20種類(5,800〜15,000円)。
日々、小皿メニューが増殖中

日々のメニューは特に小皿メニューが豊富にあり、山﨑さんの豊かな発想のもと「ブラータチーズのぬか漬け」など実験的なものも用意されている。駅からは離れているが。場所は環七通り沿いでわかりやすい。”NICHI NICHI”の白いのれんを目指して出かけてみよう。
※価格はすべて税込