【噂の新店】Siamo noi
16年もの間、自由が丘で屈指のイタリアンとして名を馳せた「mondo」が、「Siamo noi」と名を改めリニューアル。お客さんとコミュニケーションが取れるカウンターで繰り広げられるのは東京の食材をイタリア料理に昇華した“クチーナトキオネーゼ”。4人の精鋭が口福をもたらします。
Siamo noi(=私たち)の最高の料理を楽しんでもらいたい!

自由が丘駅から10分ほど歩いた住宅街の一角に16年という長い間、愛されたイタリアンの名店がありました。その名は「mondo」。UKロックが流れる空間でオーナーシェフ宮木康彦さんの料理とソムリエ厳選のワインのマリアージュの虜になった人がどれほどいたことでしょう。その「mondo」はソムリエの退職に伴い昨年夏に閉店、半年の充電期間を経て「Siamo noi」へと生まれ変わりました。

看板もなく住宅にとけこんでいる私道を入り、階段を下りるとやっと見えてくるエントランスは、数ある隠れ家レストランの中でも“隠れレベル”の高さはダントツ。道のりでワクワクするのもこちらの醍醐味と言えるでしょう。

その扉の向こう側に広がるのは8席のカウンターとオープンキッチン。以前は隠れていたキッチンですが、リニューアルしてお客さんとコミュニケーションが取れるようになりました。こちらでパスタの手打ちや料理の仕上げが目の前で繰り広げられると共に、食材や生産者についての話が聞けます。

店内には所々に「mondo」の面影を残しており、常連客は懐かしさを、初来店の人は温かみを覚えます。「『mondo』のことを記憶に留めておきたかった」と話すのは宮木さん。

「Siamo noi」は“私たちの”という意味。生産者を含めた店に関わる全員で最高の料理を楽しんでもらいたいと名づけられました。休業期間中に他店で修業したり生産者を訪れたり、コラボイベントや姉妹店で腕を振るうなど、技術と知識を向上させながら何を提供するかを全員で模索し、出した答えは“クチーナトキオネーゼ(=日本の良い食材が集まる東京ならではのイタリア料理)”。東京をイタリアの21州目としたらどんな料理が作れるのかという、「アクアパッツァ」日髙良実氏が30年前に作り、宮木さんが師事した「クチーナトキオネーゼ コジマ」の小嶋正明氏に受け継がれたコンセプトです。
東京の地産地消、“クチーナトキオネーゼ”に感激!

宮木さんは毎朝、秦野や三浦半島を回り、自分の目と舌で確かめた卵や魚介、野草や山菜を仕入れています。また水は名水百選で全国1位になった秦野の湧水を使い、野菜は自由が丘の農園で、果実やハーブは店の庭で育てるなど、食材は自分の足で行ける範囲のものに限定しました。また調味料には麹、ピスタチオで作った味噌などを使うといったイタリアを感じさせながらこの場所でしかできない料理、それが「Siamo noi」の“クチーナトキオネーゼ”なのです。本日はおまかせコース(ドリンクペアリング、税・サービス料込み28,000円)から抜粋でご紹介いたします。

本日のアペリティーボはモッツァレラに、庭の木に実った梅をカリカリにして詰めて“和テイスト”を利かせたアルトアディジェ州の伝統料理「ティルトゥラン」、山椒を忍ばせた香り豊かなグリッシーニには切り立ての生ハムを巻き、スミイカには「パッパ・アル・ポモドーロ(トスカーナ地方の伝統料理のトマトのパン粥)」のエスプーマをのせたタルトレットの3種。一捻りのある定番料理に頬が緩みます。

モッツァレラチーズは神奈川県足柄の10頭だけ完全放牧しているジャージー牛のミルクを使用し、毎日手作りしています。中には前日作ったストラッチャテッラチーズを入れ、さながらブッラータチーズのよう。「牛舎もない完全放牧なので食べている草によって味が変わりますが、むちゃくちゃおいしい牛乳です」と宮木さん。

看板料理の「土釜焼き」は神奈川県葉山の山で採れる野生の「からし菜」で包んだ魚を、卵白と小麦粉を混ぜて練った土で覆って焼いたもの。塩釜焼きは調理法にありますが土釜は初耳。聞けば、「中国料理にある丸鶏を泥で包んで焼く『乞食鶏』をイメージしています。塩釜に比べて食材に塩分が入らず、山の香りがしますよ」と、宮木さんオリジナルの調理法にワクワクします。

焼き上がったら土釜とからし菜を外します。土釜を割った途端に漂ってくる山の香りにうっとり。

本日は長井漁港で朝締めした「メジナ」です。「さかな人」の長谷川大樹さんから仕入れる食材はとれたての新鮮なものばかり。肉厚でふっくらとして見るからにおいしそう!

「メジナは焼く時間と休ませる時間を同じくらいかけてゆっくりと火を入れていきます」と宮木さん。しっとりでも歯応えがあるわけでもない、とれたてならではの食感とうまみを最大限に引き出した火入れは感動的! 白ワインビネガーと塩とオリーブオイルで味付けしたからし菜の茎とアーモンドは食感を、飾りにした明日葉とハバノリは香りとうまみをプラスします。経験を重ねた宮木さんだからこその気負いのない境地がうかがえる一皿です。
目の前で手打ちするパスタに悶絶!

パスタを手打ちするのは吉井陸人さん。長い麺棒を巧みに使い、生地を中心から外へ向かって伸ばしては方向を変えてまた伸ばすを30分以上繰り返し、向こう側が透けるくらいまで薄くします。

生地は秦野産の小麦粉とイタリア産「000粉」と卵で作っています。打ち粉はほとんどせず、生地に気泡を残して仕上げたタリアテッレは生パスタとは信じ難いほどの軽さです。

地元の「髙橋農園」の芽キャベツは20分以上かけてゆっくり炒め、ギュッと凝縮された味を引き出したところに手打ちしたタリアテッレをフライパンの中で芽キャベツと軽く混ぜ合わせ、半熟にした秦野「みくるべたまご自然農場」の放し飼い有精卵をのせています。

イタリア「BEPPINO OCCELLI」のバターで和えたタリアテッレは、それだけで食べてもとんでもなく贅沢な味わい。卵を割って流れ出た黄身を芽キャベツとタリアテッレに絡めればこれがまた至福の瞬間。素材一つ一つの特徴を理解し調理すると、こんなにも極上の一皿を生み出すのだと納得させられます。

最後に供されるのはデザートです。コンポートにしたフレッシュな苺とバルサミコのクランブルとバニラアイスの上には本物かと見間違う2種類の苺をのせています。1つはフリーズドライの苺、クローブ、胡椒、チョコレートを入れたセミフレッドアイス。見た目の可愛さに反してスパイスが利いた大人な味です。もう1つはチョコレートコーティングがパリッと割れると現れるフワッフワのピスタチオフレーバーのパンナコッタ。甘さ控えめでこちらもワインに合うスイーツです。

イタリアンの魅力は土地ごとに異なる美味だと言いますが、東京近郊で手に入る食材がこんなにもおいしいイタリアンに昇華するとはうれしい驚きです。なにしろおいしい!が一番と考え、朝とれたもの、少し寝かせたもの、長期熟成したものなど、素材それぞれのおいしさをキャッチしてベストな調理法で料理する。「Siamo noi」の提案する“クチーナトキオネーゼ”、心震わす一皿がここにあります。